FRAME明日へのステップ

不良債権を処理することはそれ自体が金融システムを安定化させることになり、それによって停滞していた銀行融資が増え、個人資産がリスク性資産の保有に向かうと期待された。
銀行に不良債権処理を強いたのは金融庁であり、「金融再生プログラム」や「金融検査マニュアル」がその手段だった。 不良債権そのものは見事に減ったし、景気は回復した。
そこで「構造改革」が有効だったと政府は主張している。 護送船団方式という裁量政策から「金融検査マニュアル」というルールへの転換は必要だったし、金融システムが安定したのも事実だが、けれどもそのことと景気との関係はほとんど不明である。
景気は不良債権処理が行われた「にもかかわらず」好転したというのが真相だろう。 Tは公的資金投入を不良債権処理と引き替えに行った。
つまり不良債権処理が目的で公的資金投入は手段にすぎなかったのだが、現実には公的資金投入がきっかけとなって株価が上昇し、不良債権処理も進み金融システムは安定した。 不良債権を処理すると土地・資本・労働が市場で移動する。
それにはさらに規制や慣行を撤廃しなければならなくなる。 これに1990年代から主流となっていた製品市場の規制緩和とを合わせると、「市場の純粋化」が完成する。
しかし、製品市場で競争が激化すれば、企業が製品開発に力を注ぐだけでなく不祥事を回避するよう配慮すると期待されたが、これもM自工やJの不祥事から机上の理屈にすぎないことが判明した。 企業の健全性は、企業文化や組織体質によるらしいのだ。

「都市再生」政策は、荒廃した土地を収益の高い用途に転用するよう規制の撤廃を行う、としていた。 だが現実に行われているのは、小さな店舗などの界隈性で賑わっている地域で大規模な再開発を行ったり、都心に超高層ビルを建設することである。
これは民間主導の「箱物」行政と表すべきだろう。 地方や郊外から都心に人口を移動させようというのである。
大都市の税収を地方に還付するルートも細くなっているから、大都市と地方との格差は開く一方だ。 直接金融化は、安全性資産の保有割合が依然として多く、日銀がベースマネーを増やしてもマネーサプライの拡大にはつながらないことから、銀行が過剰だとの判断がなされたことにもとづいている。
銀行は合併へと誘導が行われた。 けれども企業は規模が小さければ銀行に頼るしかないし、地方銀行はそれに応えるべく企業の返済可能性を審査する能力を高めてきた。
にもかかわらず「金融検査マニュアル」は大銀行にも地銀にも一律に課されるために、地銀は整理されている。 そのせいもあって、好況にもかかわらず中小企業の倒産は減っていない。
また国民に対してもリスク性資産の保有が強要されており、ペイオフ解禁や郵貯の民営化もそれを目的としている。 さらに相互持ち合いが解消されてきたために、IT企業による株の買収が事件化している。
アメリカでも1980年代から同様の事態となり、各企業経営者は買収に備えて株価を吊り上げざるをえなくなった。 それは企業防衛のためにやむなく行われたことだが、経営者の報酬がストックオプションで支払われるようになると株価引き上げは経営者の目的となり、収益に変動があっても株価だけは常時上がり続けるよう会計上の粉飾がなされて、エンロンやワールドコムは破綻した。
同時に年金を株につぎ込んでいた家計も、窮乏してしまった。 直接金融化にはそうした危険が潜んでいることを、アメリカの経験から学ばなくてはならない。
雇用についてはリストラおよび成果主義が定着している。 労働市場が活発化したということだが、企業は雇用を、金融資産のようなボートフォリオとしてとらえている。
弁護士や金融ディーラーなど高度な専門能力を有する人々は非正規雇用、長期的に企業特殊技能を蓄積する人材は正規雇用として分類を明確化し、研修に費用をかけられないために「即戦力」が求められるようになった。 それはコミュニケーション能力を形成するといった、学校や地域で長い期間をかけ育むべき教育を軽視するものではないかと懸念される。

このように、「構造改革」のもとで大都市/地方、大企業/中小企業、大銀行/地方銀行、正規雇用/非正規雇用といった分断が生じている。 これは、収益が高い部門から低い部門に波及するという「トリクル・ダウン」が遮られている、ということである。
ところが奇妙なことに、「構造改革」はトリクル・ダウンを活性化させる策として唱えられてきた。 規制や慣行の妨げを排除して市場化が進めば、労働や資本・土地が転用され、高い収益を挙げる地域や企業に集中するために、好況はその他の地域や企業にも広がっていくというわけだ。
けれどもそれが本当なら、構造改革や民営化で市場は継ぎ目なくつながっていくはずである。 ところが現実に起きているのは反対のことであり、経済は分断されている。
一体、理念と現実との間で何が起きているのだろうか。 「解釈の図式」への固執は、構造改革派ともっとも激しく対立するとされる「リフレ=反デフレ派」においても同様である。
その主張には、2つの柱がある。 ひとつにはデフレ(物価下落)が支出低迷の原因となっているとみなすことである。
物価が下がっても賃金に下方硬直性があるならば実質賃金は上昇するから、利潤が圧縮され、設備投資は低迷する。 一方、物価の下落は将来の貨幣価値を上げるから、現実のデフレからデフレ期待が生まれていると、貨幣を手放さず消費も先延ばしされるだろう。
これが、ベースマネーが伸びたのにマネーサプライがさほど増えずに保有されてしまっていることの理由である。 さらに物価の下落は実質的な債務を増やすから、健全に経営していた企業のバランスシートも悪化させ、経営を危機に追いやる。

多くの論者が、こうしたことを述べている。 ここまで見てきたような経済の〈分断〉は、政府やエコノミストによって明示的には報じられていない。
むしろ、構造改革こそが分断を解消するかのように論じられた。 反証例が挙がっているのに、逆にそれは構造改革が不十分であることの証拠とされたのである。
私にはその理由として、社会的な事実・現実を理解する際に、どうしても手放したくない理念、すなわち「解釈の図式」があるからだと思える。 新古典派エコノミストたちは、どんな現実を理解するのに際しても特定の図式が手放せないのであり、その図式を否定するかに見える事実でさえ、曲解してみせるのである。
それは、経済的・社会的な動機からいえば、各人の信奉する「解釈の図式」が既得権益になっているせいだろう。 そうした図式を教えることが教授職としてのサービスであったり、そうした図式をシールとすることが研究職の資格条件だったりするからだ。
経済にどのような分断があり苦しむ人がどれほどいようとも、既得権益を死守するためにはそれは「存在しない」ことにされている。 存在を指摘するのは、新古典派理論を既得権益としないとエコノミストか、格差を論じる社会学者たちであった。
二つには、金融緩和により、デフレを緩やかなインフレに誘導することが可能とみなしている。

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